営業車(運送会社の貨物自動車やタクシーなど)が事故によって破損した場合、これによって営業できなくなったことで生じた損害がある場合には、その損害の賠償を求めることができます。
これを休車損害又は休車損と言います。
休車損害が認められるのは、原則として営業用車両に限られます。
休車損害は「営業できなくなったことによって生じる損害」ですから、いわば当然です。
では、休車損害はどのように算出するのでしょうか?
休車損害は、被害車両の1日あたりの利益を計算し、これに修理期間、または買換期間を掛けて算出します。
基本的な考え方は次のとおりです。
事故によって修理や買い換えが必要になります。
その間、その車両は営業に使えません。
その車両を使って営業ができなくなるわけですから、その分、利益を奪われます。
事故がなければ得られていたはずの利益が奪われるので、その奪われた利益(逸失利益)に見合う額が損害になると考えるのです。
営業に使えない期間は、修理や買い換えに必要な相当期間です。
修理や買い換えに「必要な相当期間」とわざわざ言うのですから、そこには重要な意味があります。
仮に、被害者側の事情で、修理期間や買換期間が長期に及んだ場合には、実際に要した修理期間や買換期間に見合った休車損害を請求することはできません。
休車損害を請求できるのは、修理や買い換えに通常必要な期間に限られることになります。
被害者側にも損害の拡大を防止すべき義務があるからです。
では、車両の1日あたりの利益はどのように算出するのでしょうか?
被害車両の1日あたりの利益は、通常、確定申告などから1日あたりの利益を算出し、これを被害者の保有台数で割って計算します。
1日あたりの利益は、事故前3ヶ月間、あるいは事故前半年間、あるいは事故前1年間の「売上実績」から、これに応当する期間の「経費」を差し引いて計算します。
なぜ、売上から経費を差し引くのでしょうか?
言い換えれば、なぜ、利益だけが損害になるのでしょうか?
それは、次の考え方に基づいています。
被害車両が使えなくなると、その車両を動かすのに必要な費用の支払を免れます。
「支払を免れる」ということは、その分、被害者が利益を得たと考えられます。
事故によって被害者が利益を得るというのはおかしな感じかもしれませんが、事故によって支払を免れた費用は、被害者の利益として、損害から差し引かなければなりません。
事故によって支払を免れた経費は損害から差し引かなければならないので、休車損害は、あくまでも売上から経費を差し引いた額(利益)となるわけです。
では、事故があっても、かわらず支払わなければならない経費はどうでしょうか?
例えば、駐車場代など、事故があっても支払いを余儀なくされる経費があります。
こうした固定経費は、事故によって「支払を免れる」わけではないので、被害者の利益にはなるわけではありません。
従って、休車損害の計算において、事故があっても支払わなければならない固定経費は、売上から差し引かなくてもよいことになります。
売上から控除すべき経費は、被害車両を使用しないことで支出を免れる経費、すなわち変動経費です。難しく言えば、車両の実働率に応じて発生額が比較的に増減する経費ですね。
変動経費の例としては、燃料代やオイル代、道路使用料、車両修繕費、運転手の乗務手当等があげられます。
逆に、休車期間中も支出を余儀なくされる固定経費(例えば、乗務手当以外の人件費、減価償却費、保険料、駐車場使用料、税金など)は控除しません。
以上が休車損害を算出する基本的な考え方です。
こうした基本的な考え方をベースとして、休車損には個別の論点があります。
これについては、また別の機会に述べることとしましょう。