山田洋次監督の映画「小さいおうち」を観ました。
山の手の丘の上に建つ小さいおうち、
赤い屋根の瀟洒な家に住むきれいな若奥様が
夫の会社の新入社員に恋をしてしまう話です。
時代はまさに戦前戦中。
日本が戦争一色に染まろうとするさなか、
歴史の教科書でも戦争一色に塗られてしまった時代に、
赤い屋根の一軒家に住む美しい婦人が恋をする。
男たちが戦争、経済、外交の話に花を咲かせる中で、
一人、子どもの寝顔をデッサンするひ弱な青年に
奥様は禁じられた恋をしてしまうわけですね。
教科書は戦争の歴史ばかりを綴るけれども、その時代に、
たてまえで語りきれない生身の人間が生きているわけです。
けっきょく、赤い屋根のおうちは焼夷弾に焼かれてしまいます。
そして奥様は、ご主人と、防空壕のなかでふたり抱き合うように
死んでしまうわけですが、
これが、夫婦であり、人間というものなんですよね。
この映画、
じつはキャスティングがすごく大事な映画だと思います。
キャストに少しでも違和感があると、この映画はとたんにいやらしくなり、
浮き足立ち、陰鬱になり、肝心のテーマがかき消されてしまうからです。
そういう意味では、お吸い物のような映画。
さすが、山田監督というべきか、絶妙な配役です。
たとえば、ラサール石井が演じる柳社長の置き所がいかにも山田監督らしい。
ぽっ、ぽっ、と、滑稽さを取り入れることで、色彩を明るくするわけですね。
板倉役が吉岡秀隆だからこそ、世の男性陣の溜飲も下がるというもの。
中嶋朋子に毒々しい松岡睦子役をさせることで、歪さを感じさせたり。
いやはや、なんとも良いお味でした。