弁護士 駒井重忠Blog

弁護士法人 菜の花

日本人のわすれもの ~櫻井よしこさんの講演を聞いて~

ロータリークラブの地区大会(国際ロータリー第2690地区大会)に参加しました。

あいにくの雨でしたが、岡山ドームには大勢のロータリアンが集まり、盛大な大会が催されました。

朝10時から夕方4時までの大会でしたが、今大会の一つの目玉がフリージャーナリスト櫻井よしこさんの記念講演です。

記念講演のテーマは「日本人のわすれもの」でした。

恥ずかしながら、私は櫻井さんの講演を初めて聞く身でしたので、どんな話なのだろうかと関心を持って聞かせていただきました。

まず、印象としては、とてもスピーチの上手な方だと感じました。言葉が綺麗ですし、フレーズごとに間を置きながら、ゆっくりと語るので、私にはとても聞きやすく、わかりやすいものでした。時間を忘れて、吸い込まれるように聞くことができました。

裁判員裁判の弁論で、ぜひ参考にしたいと思うような、聞き手を引きつける上手な語りくちでした。

内容については、日本は、このまま行くと40年後の人口が現在の4分の3になり、超高齢社会がさらに進行することで国力が低下する危険があること、国力の低下を防ぐためにも優れた人材を確保する大切さと、歴史教育の重要性が説かれました。

話はさらに尖閣諸島沖の衝突問題に移り、1972年以降の日本の対中外交の失敗とその背景にある中華思想の脅威、今回の問題で明らかになった日米安保の脆弱さ、日本政府の対応の無責任さ、占領下に制定された憲法の問題、軍事力の必要性に及びました。

櫻井さんのお話は、私のつたない理解ではありますが、要するに、国際社会において日本人としての誇りを忘れてはいけないというものであり、そのためにも教育、とくに歴史教育が大切だということだと理解しています。

櫻井さんの「日本国」と「日本人」を思う気持ちは非常に熱いものだと感じました。

ただ、私は、職業柄、どうしても話を仮説・検証的に聞くところがあります。
もし、質問の機会があったなら、いくつか尋ねてみたいと思うところがありました。

櫻井さんのお話は、とても耳心地の良いものですが、それだけに聞く側が感覚的に受け入れてしまいやすく、理解を誤るとナショナリズムの弊害に陥ってしまうものだと感じました。「日本国」のために、人が置き去りにされてしまうという弊害です。

おそらく多くの日本人が尖閣諸島の問題に憤懣を感じたであろうと思いますし、私もそうした感情を抱きました。

しかし、日本の将来を考える場合、努めて冷静でなければなりません。

今回、私は、日本人が国際化を十分に果たしていないところに原因があったと考えています。

まず、中国の人々とのパイプが少なすぎるように思います。だから、中国政府の誤りを正す中国の人が少ない。中国の人々の力をもって政府の誤りを正すくらいにならなければならない思います。

そして、中国だけでなく、韓国、フィリピン、台湾、ベトナム、インドネシア、タイ、シンガポール、インド等々の人々の理性をもって正すことができなかったことに原因があると考えます。

日本は、小さな国ですから、もっともっとしたたかにならないといけないと思います。

 

ところで、私は、櫻井さんのお話を聞きながら、とりわけ中華思想への痛烈な批判に及んだとき、「国際」ロータリーの趣旨に反しないだろうか?と疑問を感じていました。

今回の地区大会には、中国からの奨学生もたくさん来ていましたし、ロータリークラブの奨学金で音楽を学んだ中国の女性が、音楽で日中の橋渡しをしたいと、日中関係に心を痛めていると、とても上手な日本語で、笑顔で祝辞を述べてくれました。

私は、櫻井さんのお話を聞きながら、彼らの気持ちを考えていました。
どんな思いで聞いているだろうかと。

懇親会の席で、私は隣にいた、中国からの留学生に思い切って尋ねました。
「櫻井さんの話は聞いていて辛かったでしょう?」と。

すると、彼女は否定も肯定もしませんでしたが、「国際ロータリーの趣旨にはそぐわないかなと思いました。」と答えました。

私は、彼女がたいへん立派だと思いました。このようにきちんと自分の意見が言えて、しかも相手を傷つけない答えができるというのは立派です。

私たちがまず取りかかるべきは、このように自分の意見をきちんと相手に伝えることができる若い人材を育てることだと思います。これが国際化の第一歩だと考えます。

私は、櫻井さんのお話を聞いて、賛成する点ばかりではありませんでしたが、いろいろと考える機会を与えてくれたことにとても感謝しています。とても良いお話だったと思います。