弁護士 駒井重忠Blog

弁護士法人 菜の花

パワハラ防止措置が中小企業にも義務化されました。

令和2年6月1日に改正労働施策総合推進法が施行されました。

正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。

これにより、セクハラや、妊娠出産・育児・介護休業に関するハラスメントと並び、パワハラに対する雇用管理上の防止措置が義務づけられました。

もっとも、中小企業に対しては、令和4年3月31日までの間、努力義務とされていました。

しかし、令和4年4月1日以降、これが努力義務ではなくなり、中小企業に対しても法的義務となりました。

事業主は、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

 

では、防止措置の対象となるパワハラとはどのような言動でしょうか。また、事業主は、どのような防止措置を講じなければならないのでしょうか。

 

パワハラの定義

次の①から③の要件を満たすものが、防止措置の対象となるパワハラとなります。

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること。

③その雇用する労働者の就業環境が害されるもの。

暴行や傷害はもちろん、脅迫や名誉毀損、侮辱、人格を否定するような言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと、仲間はずれや無視、過大な要求や過少な要求、私的なことに過度に立ち入ることは代表的なパワハラ類型にあてはまります。

ただし、言動の目的や経緯、状況など様々な要素を総合的に考慮して判断しなければなりません。丁寧な事実認定が求められます。

 

雇用管理上の措置義務の内容

以下の(1)から(4)の措置を講じなければなりません。

(1)事業主の方針等の明確化と周知・啓発

①事業主は、パワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。

②ハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定し,管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが求められます。

 

(2)相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備

③相談窓口をあらかじめ定めて、労働者に周知しなければなりません。

④相談窓口担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることが求められます。

 

(3)職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応

⑤事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。

⑥事実確認ができた場合には、すみやかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが必要です。

⑦事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行わなければなりません。

⑧事実確認ができなかった場合を含め、再発防止に向けた措置を講じることが求められます。

 

(4)以上の措置に併せて講ずべき措置

⑨相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知しなければなりません。

⑩相談したことや、事実関係の確認に協力したことなどを理由に不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、労働者に周知・啓発しなければなりません。

 

不利益な取扱いの禁止について

セクハラや、妊娠出産・育児・介護休業に関するハラスメントと同様、事業者は、労働者がパワハラに関して相談したことや、パワハラの事実確認に協力したこと等を理由として、その労働者に対し、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています(労働施策総合推進法30条の2第2項)。

 

事業主が雇用管理上の防止措置を講じない場合はどうなるのでしょうか。

事業主が雇用管理上の防止措置を講じない場合、厚生労働大臣による助言、指導または勧告を受けることがあります。

また、勧告に従わない企業名が公表されることがあります。

 

セクハラや、妊娠出産・育児・介護休業に関するハラスメントと並び、パワハラの防止措置は、事業主の義務となります。

事業主の方針等の明確化や、就業規則の変更、相談窓口の設置などをどのように行えば良いのかに関しては、弁護士にご相談下さい。

また、ハラスメントの相談窓口の設置や事後対応に関しては、丁寧な事実認定と信頼性が重要になります。

裁判実務をかさね、事実認定に精通した弁護士に、ハラスメント相談窓口を委託することもできますので、ご検討下さい。