弁護士 駒井重忠Blog

弁護士法人 菜の花

国家と主権について

主権国家という言葉があります。ここに言う主権とは何か、ご存知でしょうか。また、国家とはいったい何でしょうか。

国家の始まりは、ヨーロッパの絶対王政に遡ります。実は、それまでの中世においては、政治権力が国王に集中していませんでした。地方の支配権は、各地の諸侯が握っていました。そして対外的にも国王はローマ教皇や神聖ローマ皇帝からの干渉を受けていました。

中世においては、国王の支配権が直接に及ぶ「領土」という概念も、国王が直接支配する「国民」という概念もありませんでした。

その後、国王は、徐々に封建的な貴族体制を解体していきます。そして、国王自らが領土と国民を直接支配する中央集権体制を作り上げます。これが絶対王政であり、国家の始まりです。

絶対王政における国王は、領土と国民を直接的に支配し、対内的にも対外的にも独立した最高の権力を手にしました。この対内的にも対外的にも独立した最高の権力が「主権」です。主権とは、国家を統治する国王の統治権を意味しました。

ところが、その後、近代市民革命により、国王の権力を国民が奪います。これによって、国家の統治権、つまり主権が国民に帰属することになります。これが国民主権です。

この時点で、国家は、一定の領土を持ち、統治権を備えた国民の集合と観念されるようになります。「領土」「国民」そして「主権」が国家の三要素だと言われています。

現代の国際社会は主権国家によって構成されているのですが、この主権国家とは、一定の領土を基礎として、中央集権的な国家権力、つまり主権を備えた国民の集合体です。

なぜ、主権国家が対外的に独立であるかというと、もともと主権という概念が、国王はローマ教皇等の外部からの干渉を受けないという意味で使われた概念だからです。この対外的に独立した主権が国民に帰属することを国民主権といいます。

主権国家は他国の干渉を許さないという考え方は、こうした背景によって生まれた考え方です。

こうして見た場合、主権国家という概念は、歴史的に人間が作り出した考え方にすぎないことがわかります。主権国家が他国の干渉を受けないという考え方も、歴史的に作られたフィクションだといえるのです。

日本という国を見た場合、その昔は戦国大名が各地で戦を繰り返していました。その後、幕府が治め、明治維新によって天皇主権の中央集権国家が成立します。戦後、日本国憲法のもと、日本という国家の主権が国民に帰属しました。

今や、いくら鳥取を愛する人でも、兵庫県民と戦をする人はいないでしょう。しかし、その昔は真剣に戦をしていたのです。

では、国同士の戦争とは何でしょうか。国家の防衛とは何でしょう。戦争をしてまで守るべき国家とは、領土とは何でしょう。愛国心があれば、他国と戦争すべきでしょうか。

いつの日か、祖国を愛する人が、鳥取を愛する人のように、いくらふるさとを愛すれども、他国民と戦争することがないような、そんな時代が来てほしいと思います。