親が亡くなると、子が親を相続します。
親を相続するのは実子だけでなく、養子もまた養親を相続します。
例えば、死亡した父親に実子と養子がいた場合、すでに母親が他界していたとすると、法定相続人となるのは実子と養子です。
実子と養子が円満であれば良いのですが、例えば、父親の意思に沿わないかたちで、典型的には、署名の偽造という手段によって、養子縁組の届け出がなされたというような場合、実子は養子を相続人から排除したいと考えるでしょう。
このような場合、養子縁組が無効であることを法的に認めてもらう方法として、養子縁組無効確認の訴えを裁判所に提起するという方法があります。
この「養子縁組無効確認の訴え」を提起できるのは、養親や養子といった養子縁組の当事者だけではありません。
縁組の当事者以外であっても、養子縁組無効確認の訴えを提起できます。
しかし、誰でも彼でもこの訴えを提起できるかというと、そうではありません。
判例は、養子縁組が無効であることによって自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者だけが訴えを提起できると解釈しています(最高裁第三小法廷昭和63年3月1日判決)。
したがって、仮に養子縁組の届出が偽造であったとしても、養子縁組の無効によって自己の身分関係に直接の影響を受けない者が提起した訴えは、訴えの利益がないという理由で、訴えが却下されます。
では、仮に亡くなられた方に遺言があるというケースではどうでしょうか。
例えば、遺言によって相続財産の全部を遺贈された人(包括受遺者)が、遺言者の養子から遺留分の主張を受けたとします。
この場合、遺贈を受けた受遺者が、養子の縁組が無効だと主張するために、養子縁組無効確認の訴えを提起できるでしょうか?
この場合、受遺者は縁組の当事者ではありませんが、縁組当事者以外であっても養子縁組無効確認の訴えを提起できることは、すでに述べたとおりです。
ですが、先の判例によると、自己の身分関係に関する地位に直接の影響を受ける者でなければ、養子縁組確認の訴えを提起することができません。
問題は、この場合の受遺者が、養子縁組の無効によって自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者といえるかどうかです。
この点、判例は、包括受遺者が養子縁組の無効によって自己の身分関係に直接影響を受ける者ではないとして、訴えの利益がないと判断しました(最高裁第三小法廷平成31年3月5日判決)。
包括受遺者は、養子から遺留分減殺請求(現在では遺留分侵害額請求となっています。)を受けたとしても、自己の財産上の権利義務に影響を受けるだけであって、身分関係に直接の影響を受けるわけではないと判断したのです。
この判例の射程範囲は、相続財産の全部を包括遺贈された受遺者に限らず、特定遺贈を受けた受遺者や一部包括遺贈を受けた受遺者にも及ぶものと考えられています。
では、養子縁組が無効だという場合、上の例のように養子から遺留分を主張された包括受遺者は、どのような方法で養子縁組の無効を主張すれば良いのでしょうか?
この場合、養子縁組無効確認の訴えを提起することはできませんが、養子から提起された遺留分侵害額請求訴訟において養子縁組が無効であることを主張すれば良いということになります。
無効確認の訴えを提起するまでもなく、別の訴訟で、請求を排除するために無効を主張することができるというわけです。
養子縁組の無効は、養子縁組無効確認を求めるまでもなく、他の訴訟の前提問題として主張することができるので、これができるのであれば、わざわざ養子縁組無効確認の訴えを提起する必要がありません。
また、養子縁組無効確認の訴えは、その判決が確定すると、その訴訟当事者以外の第三者との関係においても、その養子縁組が無効であるという強力な効果(対世効)が生じます。
財産関係の訴訟において個別・相対的に無効が認められれば足りるような場面において、対世効という強力な効力を与える必要がなく、判例は、このような場面にまで養子縁組無効確認の訴えを認める必要がないという判断に至ったものと考えられます。