私は、鳥取大学の教育地域科学部(当時)の出身で、中高校国語の教員免許を持っています。
教師になる夢を持っていましたが、教育実習での経験を機に、将来の進路について悩むようになりました。
何より先生方が忙しくしており、「もしかしたら自分のやりたいことが出来ないかもしれない(それ位やるべき事が沢山ある)」と感じたことがきっかけです。
皆さんは、学校の先生に対してどのようなイメージを持っていますか。私は、「とてつもなく働いている」というイメージです。
先日文部科学省が、「国立大学の附属学校における労務管理等に関する調査結果」を発表しました。
24の国立大学法人において、附属学教教員の時間外労働に対する割増賃金が適切に支払われていなかった、労働基準監督署から是正勧告や指導があったと調査の趣旨が説明されています。
未払残業代の合計が15億円と多額だったこともあり、各種メディアが報道しました。母校である鳥取大学でも一部未払があったようです。
さて、この問題の背景に「教職調整額」というものがあります。
教職調整額とは、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する特別措置法(給特法)に基づき、時間外労働手当及び休日勤務手当が支給されない公立学校の教員に支給される給料月額の100分の4相当の額のことを言います。
給特法は割増賃金の支払について定める労働基準法37条の適用を排除しているため、公立の教員に同法を前提にした割増賃金は支払われません。その代わりに、教職調整額が支払われています。
平成16年度の法人化前の国立大学の教員には、給特法の適用がありました。そのため、職員に対して前記教職調整額が支給されていました。報道によると、法人化以降、給特法が適用されなくなりましたが、労働基準法に基づく割増賃金の支払が必要になるとの認識が不足し、従前の教職調整額相当の手当のみの支給を続けていた(したがって、労基法に基づく支払と教職調整額との差額が支払われていなかった。)ケースが多々あったようです。
このような背景から、冒頭に紹介した総額15億円もの残業代未払が発生してしました。
この教職調整額に関し、近時注目されているのが、埼玉県の小学校教員による増賃金請求事件(さいたま地裁令和3年10月1日労判1255号5頁)です。
公立学校の小学校教員である原告が、時間外労働を行ったとして、時間外割増賃金またはその相当額の支払いを求めて県を訴えた事件です。
一審判決は請求棄却、つまり、教員の請求を退けました。事件は控訴されていますので、今後の高裁の判断が待たれることになります。
さて、判決は、教員の職務の特殊性として、「教育的見地から、教員の自律的な判断による自主的、自発的な業務への取組みが期待される」こと等を理由に、厳密な労働時間管理やそれに応じた給与支給が不可能と判断し、「校長が、その指揮命令に基づいて各教員が業務に従事した労働時間を適切に把握できる方法もない」と述べています。
しかし、教員としての職務に差違がないと考えられる私学教員には給特法が適用されないため、一般労働者と同様の労働時間管理と未払割増賃金の支払が求められます。また、先に述べた国立大学の教員の場合、平成16年度を境に、私学教員同様の労働時間管理と未払割増賃金の支払が要請されることとなりました。
公立教員の場合、労働時間を適切に把握できないが、それ以外の教員に対しては厳密な労働事件が求められるというダブルスタンダードをどのように理解すれば良いでしょうか。
教員の命や健康を蝕む長時間労働の弊害を除去するためにも、高裁の判断が注目されます。