史上最高のベネズエラ映画と称されるニコ・マンサーノ監督『Yo y las bestias 博士の綺奏曲』@ jig theater
スクリーン全体が淡い琥珀色に包まれる印象的なファーストカット。場面が切り替わり、黄色い衣に身を包んだ「ビースト」が青い塩原の上をゆっくりと歩く。この黄色と青の対比は映画全体を通じて統一されており、現実世界と創造の世界を印象的に描き出している。
主人公のアンドレスはオルタナティブ・ロックバンド「ナス・ビジャミスタス」のヴォーカルであるが、メンバーが無断でマドゥロ政権が主催する音楽祭に参加しようとしていたことを知り、バンドから脱退する。
アンドレスは青で統一された現実世界を生きている。停電のため車庫が作動せず、自動車を駐車することが出来ない。一人で海辺を歩いていると「強盗に遭うぞ」と注意を受け、彼女から亡命することを伝えられる。令和7年1月10日、マドゥロ大統領の3期目の就任式が行われたが、昨年7月の大統領選での勝利の証拠は示されておらず、野党が不正選挙を訴えているベネズエラ。マドゥロ政権が独裁化を進め、野党や市民への圧力を強めていると報道されているが、そんなベネズエラの現実が青い色調で淡々と描かれている。
そんな現実世界を生きる、アンドレスは「ビースト」とともにソロアルバムの製作を試みる。
ビーストに関連するシーンは全て黄色で表現されており、煌めく琥珀色のサンキャッチャーがそのシンボルとして重要な役割を果たしている。風に吹かれてキラキラと煌めき、美しい音を奏でるサンキャッチャーは、淀み、停滞する青の世界とは対照的に躍動的に描かれる。それは、アンドレスの内面世界の創造的鼓動に他ならない。
他方、アンドレスはスマホで自分が抜けた後の「ナス・ビジャミスタス」のPVを動画で見て息苦しさを覚える。そのPVには赤い世界が広がっている。
映画を見終わった後、あの赤い表現に何だかモヤモヤしていたが、ベネズエラの国旗を見て腑に落ちた。そうだ、これはベネズエラ映画だ。