弁護士 今田慶太blog

弁護士法人 菜の花

休業手当について(コロナ)

休業手当について考える。

 

問「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示により、事業を休止し、労働者を休業させる場合、どのようなことに注意すべきですか。」

厚生労働省が発表する『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年4月24日時点版』は、上記問(問6)に対し、以下の説明を行っています。

「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示により事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、労使がよく話し合って、休業中の手当の水準、休業日や休業時間の設定等について、労働者の不利益を回避する努力をお願いします。また、労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。(後略)」

上記説明で分かることは、一連のコロナ騒動で休業したとしても、労働基準法上、必ずしも休業手当の支払いを要する訳ではないということです。

労働基準法26条(休業手当)を見てみましょう。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

条文の中でよく分からないのは「使用者の責に帰すべき事由」ではないでしょうか。【コロナ騒動=使用者の責に帰すべき事由】となるか?これが今回のブログのテーマになります。

 

「使用者の責に帰すべき事由」という文言から、何らかのかたちで使用者の帰責事由に該当するものでなければならないことは明白です。したがって、「不可抗力」による場合は、使用者の責めに帰すべき事由に該当しないと考えられています。

ここで「不可抗力」とは、➀その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業者が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること、の2要件を備えたものでなければならないとされています(労働省労働基準局編『労働契約法上―労働法コンメンタール3ー』他)。

➀外部起因性の要件について、特措法に基づく緊急事態宣言や要請によって休業を余儀なくされたのであれば、この要件を満たすことになりそうです。他方、例えばコロナの影響によって取引先が事業を休止したことに伴う休業の場合、当該取引先への依存の程度等、別途外部起因性の要件について検討する必要が出てきます。

②防止不可能性の要件については、特に個別具体的な検討が必要になります。テレワークが可能か、就業可能な他の業務がないか等、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言えるかが問われることになります(Q&A【問7】参照)。一律に休業手当支給の要否を判断できない難しさが、ここに見て取れます。

このように、労働基準法上の休業手当支払いの要否については、高度な法的判断が必要になり、個別具体的な検討が求められます。先に紹介したQ&A【問6】の回答では、「労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず」と前置きした上で、「経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。」と、雇用調整助成金の特例措置の拡大についてアナウンスしています。

 

仮に使用者が労働基準法の規定に違反して休業手当を支払わない場合、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法120条1号)。

また、裁判所は、休業手当を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求によって、その未払額と同一額の付加金の支払を命じることができます(同法114条)。

使用者には、休業手当の支給について、慎重な判断が求められます。