弁護士 今田慶太blog

弁護士法人 菜の花

財産開示制度の改正によって、制度の実効性が向上するか?

令和元年5月、民事執行法が改正され、改正の一つとして財産開示手続の見直しが行われました。

 

貸金の返還を求める訴訟を提起し、勝訴判決を得たとします。

被告(債務者)が、判決に従って素直に支払を行う場合、何の問題もありません。

被告(債務者)が、任意の履行を行わない場合、被告(債務者)の不動産、預貯金、給与債権等への強制執行を検討することになり、この強制執行について定める法律が民事執行法になります。

しかし、金銭債権についての強制執行の申し立ては、原則として執行の対象となる債務者の財産を特定しなければなりません。

そのため、債権者が債務者の財産に関する十分な情報を持っていない場合(債務者の財産が不明な場合)、仮に勝訴判決を得たとしても、その債権を満足させることが出来ないことがあり得ます。

私自身、法律相談を受けていて、回収可能性が見込めないことから相談者が依頼を断念する場面に少なからず遭遇します。

 

諸外国においては、例えば裁判所が債務者の財産を開示させる制度があったりするようですが、日本においては長く、そのような制度が存在しませんでした。立法当時、担当者が念頭に置いていた債権者の典型は高利貸しであり、その濫用の危険を懸念したとも言われています。

たしかに、高利貸しに金銭の借用を依頼せざるを得ない弱い立場にある一般市民が、高利貸しから訴訟・強制執行を乱発され、裁判所の命令によってその財産を全て丸裸にされる事態が多発することは、必ずしも良いこととは言えません。一般市民が高利貸しの犠牲になることを防ぐという政策目的が、長く日本に財産開示手続が存在しなかったことの根底に流れていたと言えるでしょう。

平成15年の民事執行法の改正によって、ようやく日本にも「財産開示制度」が創設され、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための制度が誕生しました。

しかし、財産開示手続の利用実績は年間1000件前後と低調で、私自身もほとんど申し立てをしたことがありません。

その理由(の1つ)は、実効性に乏しい点です。

改正前の財産開示手続は、正当な理由のない財産開示手続の不出頭、宣誓拒絶、不陳述、虚偽陳述に30万円以下の過料が科せられるに過ぎませんでした。金銭を支払わない債務者に対して30万円の金銭の支払いを命じるものですから、制裁としての機能は限定的であると言わざるを得ませんでした。

過料とは、刑罰としての罰金や科料と区別される金銭罰で、刑事罰ではないので前科等になることはありません。制裁のインパクトが大きいとは言えないため、例えば財産開示手続を申し立てられた不誠実な債務者が、「放っておけ。」となった場合、それ以上前に進まない現実がありました。

 

さて、この度の民事執行法の改正によって、財産開示制度の実効性が強化され、30万円以下の過料から6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する刑事罰が導入されました。

行政罰から刑事罰への改正は、それなりに重要な意味を持ちます。

問題は、捜査機関が動いてくれるか否かです。

「財産開示手続に債務者が出頭しなかった、宣誓を拒絶した、陳述しなかった。刑事事件にしてくれ。」と相談に行って、「よしきた、直ちに捜査に取りかかろう」となるでしょうか。

虚偽陳述に至っては、あれこれ手を尽くし、それでも債務者の財産状況が分からないから財産開示手続を申し立てているのに、虚偽だとどうやって言うのでしょうか。

我々法律家による不断の努力が、新しい財産開示手続の実効性を切り開いていくことになるでしょう。